先日、印刷業界に関する調査をする機会があったのですが、その中にいくつか興味深いデータがありましたので、今回はその中の一つである「印刷業の休廃業・解散・倒産数」についてご紹介したいと思います。
印刷業界は、一言で表すと、非常に厳しい縮小市場であると言えます。超大手企業2社が最先端テクノロジーと多角化で市場の大半を占め、大きく差の開いたところに中堅企業が何社かおり、そして多数の小規模企業が残りの市場を地場で支えているという構図の業界です。
下図は日本印刷産業連合会さんが経済産業省工業統計からまとめた図をお借りしたものですが、印刷産業界は1997年の8.9兆円をピークとして市場全体の縮小が続いており、2017年は約4割減の5.2兆円となっていることがわかります。
出典:一般社団法人日本印刷産業連合会より
https://www.jfpi.or.jp/topics_detail6/id=77
この業界縮小の流れを受けて、印刷業を営む事業所数は減少を続けています(下図の青い棒グラフ参照)。
下図の赤い折れ線グラフは1事業者あたりの売上高の推移を示しているのですが、事業所数の減少に対して1事業者あたりの出荷額は増加しています。
印刷関連事業所数および1事業所あたり出荷額の推移
出典:経済産業省 工業統計表 産業別統計表データより作成
ここから分かることは、休廃業や倒産などにより事業所数は減っていますが、本来その事業所が受けるはずだった印刷需要は消滅してなくなるわけではなく、その一部が、存続している別の事業所へ移っているということです。
では、印刷業における休廃業数はどうなっているでしょうか。
下の図の青い折れ線グラフが休廃業・解散数の推移になりますが、これを見ると、2019年は2014年の214件から倍増しており、ここでも印刷業の環境の厳しさが浮き彫りになっています。
印刷業の休廃業・解散・倒産数の推移
出典:経済産業省 工業統計表 産業別統計表データより作成
倒産件数が、2014年から減少して直近3年でほぼ横ばいとなっていることを考えると、休廃業・解散の増加の要因は、急激な市場変化による資金不足というよりは(もちろんそういうケースも一部あると思いますが)、慢性的な売上減少の中での経営者や従業員の高齢化、後継者不足などを受けて、会社の純資産がプラスのうちに事業をたたんでしまおうという考えが背景にあるように思われます。
休廃業・解散数の内109件が50年以上100年未満の老舗企業であること、休廃業・解散した印刷事業者のうち64.7%が直前期決算において当期純利益がプラスであった(下グラフ参照)ということから、上記推測は当たらずとも大きくは外していなさそうであることが伺えると思います。
出典:東京商工リサーチ2019年「印刷業の休廃業・解散」動向調査より作成
このような状況を俯瞰してみると、まだ体力があって生き残りをかける印刷事業者や、相乗効果向上・効率化・強み強化のために印刷事業の獲得・拡大を狙いたい企業にとっては、純資産プラスで休廃業・解散する会社の事業を譲り受けたり吸収することで、売上増、顧客増、販路拡大、従業員確保を、ゼロから創り育てるよりは人・モノ・金・時間といったコストをかけずに実現できる可能性があるととらえることができるのではないでしょうか。
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